・すみれ

私の歳時記 No.67

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すみれ(菫)


すみれ(菫)
 今年の春になって、まだ雪が残る3月、日当たりのいい土手に咲いている菫に気がつきました。
 その後も、寒い日がつづき、春にしては大雪が降ったのに、咲きつづけていました。
 なにしろ、私にとって、野の花「再発見」のフィールドワークをはじめてまだ1年たっていないのですが、知らないことが多すぎるのです。
 気がついたら、身近な路傍や土手、林の中など、いたるところに菫が咲いています。

菫の種類
 菫には種類が多く、どれもよく似ているので私には正確な判別ができるわけがありません。
 ふつうの図鑑には5、6種類が載っているに過ぎません。
 スミレ属は、世界に400種以上、ニホンに約50種あるといわれます。しかし、最近の情報では、ニホンでも50種を超えており、もっと多いと思われます。

 「すみれ写真館」というHPがあります。くわしく調べたいかたはどうぞ。

春の季語
 「すみれ」は春の季語です。
 よく知られた俳句には次のような作があります。

 山路来てなにやらゆかしすみれ草(ぐさ) (芭蕉)
 菫程(ほど)な小さき人に生まれたし (夏目漱石)
 かたまって薄き光の菫かな (渡辺水巴)

 三色菫(パンジー)も含めて、「菫」は季語です。

何やらゆかし

 芭蕉の俳句、
 山路来て何やらゆかしすみれ草
には、「大津に出(いづ)る道、山路をこえて」という前詞があり、『野ざらし紀行』に収められています。
 従来の和歌が「野に咲く菫」を詠んだことに対して、俳諧では「山路」の菫と詠んでみせたのです。
 初案「何とはなしになにやら床し菫草」が伝えられており、さらに初五「何とはなく」とする和歌があり、西行にも使用例が多いといわれています。後に「なにとなく」は一流行の趣をなしたそうです。

 『野ざらし紀行』序で素堂は、この句と「道のべの木槿(むくげ)は馬にくはれけり」(秋)とを挙げて「この吟行秀逸」と言っています。
 これを、
「芭蕉がいわくいいがたい眼前の興、機心を伝えようと試みたのはこのあたりの句から」
だと安東次男は指摘しました。(『芭蕉150句』)

すみれの呼び方

 「すみれ」は、俳句では別名が多く、菫草(すみれぐさ)、花菫(はなすみれ)、相撲取草(すもうとりぐさ)、相撲花(すもうばな)、一夜草(ひとよぐさ)、一葉草(ひとはぐさ)、ふたば草、壺すみれ、姫すみれ、山すみれ、野路すみれなどがあります。
 このうち、菫の分類上の名は、ツボスミレ、ノジスミレなどわずかです。
 「相撲花」というのは、昔、子どもたちが、スミレの花の後方に丸く突き出している部分(距・きょ)を交差させて引っぱり、どちらがちぎれるか(すもう)遊んだのを名の由来としているようです。こういう「相撲」遊びを、「おおばこ」の花茎やポプラの葉茎などいくつかの草木でした記憶があります。

すみれほどな・・

 漱石が菫ほどの小さき人に生まれたい、とした気持ちはなんとなくわかる気がします。
 彼は、あの時代、今にして思えば、気恥ずかしいほどのロマンチストだったのです。

 すみれは、路傍のアスファルトが切れる辺りにもしがみつくようにして咲いていたりします。ど根性野菜どころか、地味で、小さな菫の生命力には感心しています。(2006.MAY)

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