・まんじゅしゃげ=彼岸花

私の歳時記No.22

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「・・歳時記」索引

2005 曼珠沙華T


曼珠沙華 咲く  曼珠沙華余話

 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)またの名を彼岸花(ひがんばな)。


曼珠沙華、満開1日前

 曼珠沙華は、色形が派手で、突然咲いて、その短い盛りをおえて見えなくなる・・・〈花〉の典型的なさまが、人気を呼んでいます。

だしぬけに咲かねばならぬ曼珠沙華 (後藤 夜半)

 この句は、そうした「常識」をうまくとらえています。しかし「だしぬけに」咲くわけではありません。

*2005年9月17日撮影

十五夜の日、満開

 数日間、茎を伸ばし、蕾をふくらませていた曼珠沙華が、ついに満開です。
 ちょうど、満月の日。

西国の畦曼珠沙華曼珠沙華 (森 澄雄)

*2005年9月18日撮影

紅い花

 曼珠沙華とは、梵語の赤花の意味で、『法華経』中にあります。

土手刈ってより二日目の曼珠沙華 (飴山 実)

むらがりていよいよ寂しひがんばな (日野草城)

 紅い花は椿とともに曼珠沙華がその代表的なひとつでしょう。

反対側から。同日撮影

+曼珠沙華余話

毒草
 曼珠沙華はユリ科で、薬草としては「むくみ」に効くといわれますが、毒草としても有名です。
 全草に、リコリン(アルカロイド)を含み、下痢や神経麻痺を起こし、死亡例があるといいます。

花のかたち
 曼珠沙華を真上からみると、下のように見事なかたちをしています。(次のページ表題の一本の曼珠沙華と同じ株)
 
 花の群れをマスで捕らえただけではこうは見えないものです。

球根と葉
 球根にはもちろん毒がありますが、昔の人は飢饉のとき、球根を砕いたものを1週間ほど流れに晒し、毒を抜いて食したと伝えられています。
 春の彼岸頃、野蒜(のびる)と間違えて、葉をおひたしにして食し死亡したという有名な話もあります。
↓葉は、下の写真。花のあと出て、冬を越し春5月頃に枯れるといいます。(写真は今年4月撮影・上記と同じ株)
 
 葉が、花の時季とまったく異なるため、これがヒガンバナ(曼珠沙華)と結びつきにくいのです。

  2005.10.26.撮影
 本題と同じ株。線形の緑鮮やかなのが曼珠沙華の葉。枯れた花茎が5本見えます。

実をつけない
 稲作の伝来とともに中国から渡来したという説がありますが、揚子江沿岸に自生するものは結実するのに対し、日本のものは結実しないので、別種かと思われます。
 花の頭頂部には黄色いオシベ(雄蘂)らしきものがはっきりあるのに実を付けないのです。同じユリ科のヤブカンゾウに似ています。

白花
 まれに白い花があるとのことですが、見たことがありません。写真で一回見たようなおぼろな記憶がありますが、想像なのかもしれません。
 後日、瀬戸内海に面した町の俳友から、庭に白花曼珠沙華が咲くと便りがありました。

丈の長さ
 〈一本の曼珠沙華〉やや木立の陰で、曼珠沙華としてはいい場所ではありません。
 地面から花の先までちょうど60cmありました。
 この花茎は長いほうです。場所、環境によって、30cm〜50cmが普通でしょう。
2005.9.22.撮影

異名
 「まんじゅしゃげ」と「ひがんばな」の名はよく知られています。「まず咲く」ところから曼珠沙華と呼ぶようになったのでは?との説があります。「まんじゅさげ」とも。
 死人花(しびとばな)とも呼ぶ地方があり、やや、気味悪い花ともされてきました。
 ほかに、捨子花、天蓋花(てんがいばな)、幽霊花(ゆうれいばな)という異名があるそうです。
 しかし、幽霊花はまったく別にあります。

もう一つの幽霊花
 ちかしい人の家に幽霊花がさいていた。以前見て知っていたので立ち寄ったら少し遅いけれどまだ咲いていた。

 この花も、葉がないところに忽然と咲く。サフランの1種ではないかと人のいう。
 かなりあちこちの庭にあるが、「幽霊花」という名は知らない人が多いようだ。いわぬが花。(2005.10.12撮影)

曼珠沙華で蛸(たこ)を釣る?
 タコ(蛸)というのは、あの海に住む8本足のタコです。章魚とも書きます。
 「俳愚」を自称する俳人とはいえ、草花や花鳥風月にはまるで関係がないような西東三鬼が「神戸」にこう書いています。

…舞子の小船の船頭が、章魚釣り(のしかけ)で、
〈カマボコ板にはイカの甲と、コールタールを塗った彼岸花の球根がしばりつけられてあり…船頭の説明によると…コールタールと彼岸花の根の好きな章魚が抱きつくというのである。私達は章魚の嗜好を発見した賢人に敬意表しつつ…〉

なのだが、西東三鬼の親友のドジでしかけごと海に投げてしまい、結局、章魚を釣ることはできなかった。
 ここで、西東三鬼が手の込んだ虚構をつくる必要はない箇所である。あやしめばきりがないが、タコがコールタールと彼岸花の根が好きだ、という話も面白いのです。

次のページでは茎が立ち上がるようすから枯れるまでを追って見ます。

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