へびの話(へびの種類・ほか)
<わたしの歳時記>番外編
「ふるさとの小さな丘」をめぐる山郷の自然と暮らし
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蛇の種類
・ヤマカガシ(地方名・黒を基調とするためか単に「カラスヘビ」と呼ぶ)
・アオダイショウ(地方名「ネズミトリ」ほか)
・シマヘビ(地方名「サカオ」ほか。また黒化型を「カラスヘビ」と呼ぶ)
・ヒバカリ
・シロマダラ(アカマダラは対馬だけともされるが、疑義が残る)
・ジムグリ
・タカチホヘビ
・マムシ(地方名「はみ」) (学名は「ニホンマムシ」)
の8種類。
■古語では、くちなわ、かがち、長虫(ながむし)などと呼び、また大蛇を「おろち」と呼んだ。「やまかがし」の「かがし」は古語「かがち」の変化であろう。また、「くちなわ」は今も方言として残る。
■なお、海蛇と南西諸島など島嶼の蛇についてはここでは言及しません。
ヤマカガシを食うカラスヘビ
へびの話は、ほら話しか蛇足かのどちらかに落ち着いてしまう。
ここでは、そのどちらにも落ちないで、それでも、物好きの余話よりはいくらか参考になればと願う。
●種類ごとの話
マムシ(真虫)
■人は蛇を食う。とくにマムシが珍重された。ドリンク剤に「赤マムシ」などの名を使ったものがよく知られる。
マムシは焼酎漬けにして傷の治療薬にしたり、また精力効果があるといって飲む。効用の程はよくわからない。
昔は山で働く豪傑がいて、蛇を見つけるとすぐに皮をはいでナマで食べると豪語していた。生のうちは骨がやわらかくてマルかじりできるのだと・・。内臓は捨てるが、マムシだけはナマの肝がうまい、とか。驚きあきれて聞いたものだが、そんな話がウソとも思えなかった。
腹を開けて干したものも食する。一時期、台湾マムシという干物が大量に輸入され、安く販売されたことがあった。
■また、和漢薬でも珍重され、マムシはかなりの値段で売り買いされる。
■マムシは毒蛇である。ただ、毒が牙の先ではなく根元に近い箇所から出るため、毒の作用が軽いといわれる。
■マムシは、体長は50cmまで程度で、中腹部は太い。
■マムシに赤(茶褐色)と黒の2種類が別々にあるわけではなく、黒っぽいものと赤っぽいものとに分かれる。
これが雌雄なのか、それとも色変なのか定かでない。ふつう色の変異とされている。
■この体色と、緑色を基調にした同じ「銭形模様」の個体を何度か見た。おそらく幼生だと思うが、今後の研究に待つしかない。
■マムシは、速く走れない。身に危険を感じたら、鎌首をもたげて攻撃してくる。この逃げない蛇こそもっとも怖いのだ。いまでは田舎の医療機関には薬がおいてある。かまれてもあわてずに治療を受けることである。
血清注射しかなかった頃、マムシに噛まれて死亡した人は、2度目に噛まれた人だと聞いた。よほど運が悪い。
ふつう、噛まれるのは蛇を怖がらないで捕まえることができる人に多い。失敗するのだ。狩りと防御以外では、マムシも、自分から攻撃することはない。
■マムシの毒性は熱帯などの世界の蛇に比べたら、比較にならないほど軽い(弱い)という。
南西諸島の「ハブ」も怖いし、海蛇はほとんど毒蛇らしい。
■2、30年も前、道路の工事中に、冬眠していたマムシが100匹近い集団で見つかったことがある。これで、場所がよければマムシは集団で冬眠することがわかった。その場所はもと農業用の小屋があったらしく、よく乾燥していて、石垣の痕や赤土、瓦などが混在し、しっかりした穴があったらしい。いっしょに他の蛇もいたそうだが、その種類などはわからない。
■マムシは胎生で、他はすべて卵生。
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ヤマカガシ(赤棟蛇)
■ヤマカガシはやや小形の蛇である。1m〜1.2mと言われるが、1mを越えるものは珍しい。身体は細く、動きは速いが逃げ足は遅い方だといえる。それでつかまりやすい。
■ヤマカガシの毒は、いわゆる奥歯だけにあるといい、深く噛まれたときには要注意という。(出血毒)
一説には、鼻の辺りから毒液を吹きかけ、それが目に入ると危ないというのがあったが、最近はそういう話を聞かない。ヤマカガシはそれほど怖い蛇ではない。ただし、死亡例がある。
■ヤマカガシの色模様は実に多彩で美しい。しかも、個体によって色模様が微妙に異なる。黒、朱、黄、白・・のとりあわせである。
生息地によって色模様が違う傾向を指摘する説もある。ただ、同じ場所でも個体差が多いと考えた方がいいように思う。
↑(左)ヤマカガシ (右)死んだフリをするヤマカガシ
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アオダイショウ(青大将)
■この地方では「ネズミトリ」と呼ばれてよく知られた蛇である。
名のように鼠を食すためか家屋に入ってくる。家屋に入ってくるのは、冬眠目的以外ではアオダイショウだけだと言ってもいい。この冬眠場所を探す蛇のことを俳句で「穴惑い」と言う。
■全体としては、この地方ではアオダイショウがいちばん大きな蛇だ。1.5m〜2m近いものさえいる。
■「ヌシ」と呼ばれる大きな個体が人々の記憶に残る。大きな個体は、蛇に対する畏怖の直接の対象となる。
■動作はシマヘビと比べるとやや遅い。
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シマヘビ(縞蛇)
■薄茶色に黒い縦縞があり、シマヘビと呼ばれる。
■この地方では「サカオ」と呼ばれることが多い。
↓写真は(2005.9.11撮影)長さ1m以上のシマヘビ
■アオダイショウと共に大型の蛇で、田畑近辺、山野、山中など広く分布する。
大型だが動きは速い。大きいものは1.5mを越える個体がいる。
■気性は激しい方で、大きな動作をする。
■ほかのヘビを食うことが知られている。(餌食になるのは、ヤマカガシ、ジムグリ、シロマダラなど小形のヘビ。)
■黒い蛇を総称して「カラスヘビ」と呼ぶが、主にシマヘビの黒化型と言われる。別記(蛇の色模様)の通り。
↑上掲蛇を食う黒蛇の写真
長さ約70cm(2005.9.23撮影)
すばしこくて、写真を1枚しか撮れなかった。
↑大きなシマヘビの皮。胴体まわり約8cm
皮はちぎれており、計測できなかったが、2m近い大物と思われる。
●以上がよく知られた蛇である。
ヒバカリ
■名の由来は、毒性が強くかまれたら、命はその「日ばかり」と言われたため、という。
■毒はない。また、噛み付くこともない。
■ふつう、30cm〜60cmと言われるが、ヤマカガシと同じくやや小形である。
■シマヘビに食われることがよくあるという。
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シロマダラ
←シロマダラ(アカマダラに見えるが?)クリック拡大》
■シロマダラをみつけたら「宝くじに当たったほどラッキーと思え」などといわれているらしい。
私は幸運にも友人が発見したシロマダラを「何へびか?」と問われてはじめて実物を見た。この地域では最初の発見になる。その友人からシロマダラをあずかった。アカマダラと呼ばれるものに近いと思われる。
写真と記録を残した。友人も記録していた。(写真はそのときのもの・著者撮影1999)
■この発見は、植木鉢の下にいたところを見つけたもので、家屋近辺にも住むと思われるが、夜行性らしく、人の眼に触れることが非常に稀な蛇だといえる。
■小形の蛇で、30cm前後かとおもわれる。
■背は赤茶のまだら模様で、腹部が白に黒いまだら模様がある。名の由来はこれのようだ。
本州にはシロマダラ、対馬にはアカマダラが棲息するといわれるが、本州に、アカマダラとシロマダラが棲むのではないか?
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タカチホヘビ
■マムシ以外の蛇は逃げ足が速い。あえて言えばヤマカガシがやや遅く、他は速い。とくにタカチホヘビは速い。それが、地味な色と棲息域(山沿い)とともになかなか発見されなかった理由の一つだと思える。
■名称の「タカチホ」は発見者の名で、地名などとは無関係である。1895年に英彦山(ひこさん)で、高千穂宣磨という人が発見した。本州、四国、九州で発見が報告されている。
■体長は、20cm〜30cmの小形で、60cmを越える個体は珍しいとされる。
■淡褐色で背面に一本の黒い線がある。全体に地味な色をしている。
■近年では、発見例がかなりあり、個体数は少なくないとの報告がある。
(内藤順一ほか「広島県西部におけるタカチホヘビの採集例」『高原の自然史・第4号』1999)
確定できないがタカチホ蛇かと・・
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ジムグリ
■鼠などの穴に入り、捕食するところから「地潜り」、じむぐりと呼ばれるという。
■逃げるばかりで、おとなしい蛇といわれる。
■体長は、60cm程度。
■幼蛇と成蛇では別種かとおもわれるほど色模様が異なるといわれる。
「穴惑い」でとらえられたジムグリ(幼生)
成蛇image
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蛇を尋ねて
●これらのすべてを、速い動きだけで判別することはきわめて困難である。
また、幼蛇から成蛇、色の変異まで重なると、よほどの情報がないと混乱することも避けられない。
蛇への知識や理解が薄いのは、実証的で確定的な情報が少ないことが原因の一つである。今後とも、ヘビについてのフィールドワークや研究が進むことを期待する。
幻の蛇「ヤマシバ」
今では、事実誤認かと思うしかなくなったが、マムシの10倍の値段で売れるという「ヤマシバ」という蛇をみたことがある。もちろん「薬用」である。
「ヤマシバ」は、全身が黒に金の斑点がある。その聞いた話とおりの蛇を見たことがある。
場所は、下に水場を控える小さな尾根付近で、カシワか何かの低い位置の大きな葉に乗っていた。
体長は小さく、20cm程度だったろう。あっというまに逃げていった。
「ヤマシバ」の名は、地方の博物誌にも見られるが、たしかなことはわからない。
なお、昔、薬用の蛇を捕る専門の人がおり、その人の話に「ヤマシバ」と思われる話があったという。この人は、籠を背負い、杖を持って、ヤマに入っていった。いわゆる「へびとりじいさん」である。
足元のヘビ
ヘビの身体は、いつも清潔である。ぬるぬるする液体などはまったくなく、むしろすべすべしている。
蛇は、原始〜古代信仰では主役だったと主張し、膨大な研究をつづけたのが吉野裕子である。蛇への畏怖から嫌悪へ、そして無関心へ、そして食物、「薬食い」へ、精力剤へ、と人間の側が態度を変化して来た。
■蛇の色模様
た、蛇は、幼生と老生が微妙に色模様が変わる。住む場所などによっても色模様が変わる。幼生ではシマヘビ、生息地ではヤマカガシなどが典型だし、今回撮影したようにシマヘビやアオダイショウには白変(白化型・アルビノ)、黒変(黒化型)がある。
白蛇は、岩国のものが有名でアオダイショウの白変である。白化型はほとんど見ることはできない。おそらく、白色は目立ちすぎてカラスや鳶、鷹などの鳥や別の大きな蛇など天敵に見つかる確率が多いのではないか。
黒蛇は、おもにシマヘビに多いというが、その数はかなり多い。縞模様が残るものからまったく消えたものまでいるというが、腹部まで黒い大きな個体を見たことがある。
そうした大きな個体には目撃談が多く、実際、私たちを驚かせる。こういう場合、人々は単に「からすへび」古くは「カラスグチナワ」と呼ぶのだ。
また、ヤマカガシにも黒変がいる。黒い蛇のほとんどがこれである。
■蛇の研究で知る人ぞ知るある人物は、その研究所(センター)で「マムシ・レストラン!?」かなにかを経営していて、ランチに「マムシ定食」!?があったとかなかったとか・・蛇にとってほんとうにおそろしいのは人間である。
(以下つづく)