・早春・寒戻る・つくし・菫(ケマルバスミレ)・芹・カンゾウ(の若芽)

私の歳時記

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早春(彼岸まで)



寒戻る

 3月6日(2007年)、啓蟄を雪で迎えようとは!異常なほどの暖冬だったので、「まさか」の厳しい寒の戻りとなりました。
 寒の戻りは、べつに「寒返る」とも。意味は「冴え返る」「凍返る」(いてかえる)などと同じ。

世を恋うて人を恐るる余寒かな(村上鬼城)

冴え返へるもののひとつに夜の鼻(加藤楸邨)

ふたたびの春

 暖冬のあとの、きびしい戻り寒。平年なら、寒が明けても寒さは当たり前の気分ですが、今年ばかりは寒さがこたえ、やっと彼岸に入って、二度目の春を迎えた気分です。
 写真いちばん上、天道虫(季・夏)が隠れようとする草は、よもぎの新芽、手前・臙脂(えんじ)色の葉が冬を越したスイバ(すかんぽ)です。


つくし(土筆)

 3月はじめ、早春の土手にようやく土筆が頭を出しはじめました。まだ数えるほどです。
 あまりの暖冬で、ほかの野の花が早く咲いたと思い込んでいましたから、土筆の出るのが少し遅く感じられました。そしてまた雪が降りました。
 つくしの写真、上が今年3月20日。2度目に出たもので、その下が、昨(2006)年3月31日、雪から頭を出しているつくしです。
 つくしは、つくしんぼ、つくづくしとも呼び、別名・筆の花。筆頭菜とも書きます。
 「♪つくしだれの子、杉菜の子♪」と童謡で歌いますが、親子ではなく、土筆が繁殖担当の胞子茎、スギナが栄養茎で、同じ植物「スギナ」の地上茎です。トクサ(木賊)科のシダ植物。

膝つけばしめり居る草土筆摘む(阿部みどり女)


すみれ(ケマルバスミレ)

 早春、ひっそりと咲くのがケマルバすみれ。小さくて地味な花で、ほかの草にまぎれるように咲いているので、見過ごしてしまいそうです。名は、マルバスミレに対して、毛がある丸い葉が特徴的なことからそう呼ばれるようです。
 菫(すみれ)は、ふつう世界に500種、ニホンに50種あると言われます。その1種ずつさえ見分けるのが困難です。50種を見分けるなど不可能です。

山路来て何やらゆかしすみれ草(芭蕉)
   *追記(ページの下にあります。)


菫程な小さき人に生れたし(夏目漱石)


芹など若菜を摘む

 この時季、山間高冷の当地では「若菜摘む」頃を迎えます。食べられる「春の野草」で、代表的なものが、ここに紹介した芹、カンゾウ、ヨモギ、土筆など。俳句で「若菜摘む」といえば、春の七草で、冬または新年の季語です。

若菜籠ゆきしらじらと畳かな(室生犀星)


 春の七草の一。最近は、用排水路が整備され、めっきり少なくなりました。あっても、農薬のことを考えるとよほど場所を選んだほうが良いようです。
 芹の花は夏の季語。

芹摘むや淋しけれどもただ一人(杉田久女)

ヤブカンゾウの若芽
 ヤブカンゾウの新芽は、甘みがあって、ぬた、おひたしにするなど茹でて食用にします。葉の裏側の浅葱色が早春の草むらに目立ちます。
 伝承では、多く食べると腸を壊すとも。その毒性が別名「ワスレグサ」の由来ではないか?とも。薬用にもなります。秋には花を天ぷらにして食べます。
 別名・忘れ草。萱草(かんぞう)、「かんぞうの花」は、秋の季語。

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追記(芭蕉のすみれ草の句)

  山路来てなにやらゆかしすみれ草

 この芭蕉の句は、『野ざらし紀行』に「大津に出る道、山路をこえて」という前詞があります。和歌が「野に咲く」すみれを読んだのに対して「山路」に見た、という工夫があると見て、蕉風を明らかにした句といわれます。別に

  何とはなしになにやら床(ゆか)し菫草

の形も伝えられています。
 「なにとなく」は、西行や慈円の歌に多く見え、この句には、「山路来て」とするに及んで「西行の面影がくっきりと立つ」とは安東次男の読みです。