ありゃま通信 俳句の頁

いい句好きな句

季語・キーワード別



トップページ|▲「いい句好きな句」総合索引

蝉(せみ)
油蝉
〈春蝉〉  松蝉とも。春。
〈蝉〉  単に「蝉」は夏の季語。初蝉。・・にいにい蝉、油蝉、みんみん蝉、熊蝉などは蝉の種類。
   →詳しくは「私の歳時記」〈蝉〉1、2へ》ここからリンクでみます》
〈蝉時雨〉  夏
〈空蝉〉  夏。蝉の殻。
〈蜩〉(ひぐらし)  秋。かなかな、かなかな蝉。
〈法師蝉〉(ほううしぜみ)  秋。つくつく法師。寒蝉とも。


蝉の句

閑かさや岩にしみ入る蝉の声     芭蕉  「芭蕉の蝉」のページへ

蝉時雨子は担走車に追ひつけず   石橋 秀野 *「担走車」たんそうしゃ
 秀野の絶唱、事実上の絶筆とされる。結核と腎臓病を病んだ作者が最後の入院をするとき、乗った自動車のあとを子が走って追う。蝉時雨のなか・・。
秀野は若者たちに「詩を作るより田を作れ」と言っていたという(上野さち子『女性俳句の世界』)。

おいて来し子ほどに遠き蝉のあり   中村 汀女

悉く遠し一油蝉鳴きやめば       石田 波郷 *「悉く」ことごとく
 一匹の油蝉がやかましく鳴いていたのに、突然鳴き止むや、すべてがいっぺんに遠ざかっていく・・。
 油蝉の大きな声、突然の沈黙、壮大なイメージに世界との距離を感じる。

蝉時雨きのふのごとく戦後過ぐ    清水 基吉
 この句は、時の流れの速さを表現するが。終戦の晩夏、あの8月の蝉時雨といまの蝉時雨、あるいは幾度かの夏の記憶が重なるために、「戦後」が昨日のように過ぎていく・・という。
「戦後」60年のいま、もはや「きのう」や一昨日でさえなく、戦後は「昔」になり、戦争体験は風化しつづける。

身に貯へん全山の蝉の声       西東 三鬼

ひぐらしや熊野へしづむ山幾重    水原 秋桜子

また微熱つくつく法師もう黙れ     川端 茅舎

裏返る蝉のなきがら蝉時雨      蓬田 紀枝子


蝉という季語は、鳥のなかの「ほととぎす」や「うぐいす」、虫のほとんどとともに、鳴く「声」が主要な季語だといえる。
声や音によって明確なイメージが喚起されるというのも、日本語詩歌の重要な要素の一つであろう。

空蝉
その中で、「空蝉」ばかりは「姿・形」の季語。

空蝉のふんばって居て壊はれけり  前田 普羅

空蝉

ページのトップ


蝉の句コレクション

どんな「歳時記」にもありえないこだわりコレクションです。


蜩やどの道も町へ下りてゐる       臼田 亜浪

山蝉やかちりかちりと竹を伐る       臼田 亜浪

暁の蝉が聞ゆる岬かな           前田 普羅

蜩や今日もをはらぬ山仕事         原 石鼎

暁の蜩四方に起こりけり           原 石鼎

わかれきてつくつくぼうし           種田 山頭火

空蝉を子が拾ふ手の女なる         後藤 夜半

躓ける恰好のまま蝉の殻          後藤 夜半

春蝉や多摩の横山ふかからず       篠田 悌二郎

暁やうまれて蝉のうすみどり        篠田 悌二郎

松籟の蝉の澄む丘無きか行かむ     及川 貞 (前詞)心重きことあれば

空蝉に肉残り居る山河かな         永田 耕衣

法師蝉しみじみ耳のうしろかな       川端 茅舎

また微熱つくつく法師もう黙れ       川端 茅舎

石枕してわれ蝉か泣き時雨         川端 茅舎

やわらかき蝉生れきて岩つかむ      西東 三鬼

子を殴ちしながき一瞬天の蝉        秋元 不死男 *「殴ち」うち

しづけさのきはまれば鳴く法師蝉      日野 草城

片恋やひとこゑもらす夜の蝉        日野 草城

空蝉のからくれないに砕けたり        橋 關ホ

蝉時雨つくつく法師きこえそめぬ       芝 不器男

わが膝の手錠両手に鳴く秋蝉        橋本 夢道

約束のなき日は楽し法師蝉          星野 立子

蜩や灯ともせばわが影法師          大野 林火

蝉を近づけ昼寝の母を子がのぞく      加藤 楸邨

法師蝉ゆつくり経を唱ふあり         山田 波津女

法師蝉大和の言葉にて鳴けり        山田 波津女

掌にのせし空蝉がわが掌をつかむ      山田 波津女

わが余白雄島の蝉の鳴き埋む        細見 綾子 (前詞)松島

秋の蝉鐘にあたりて墜ちにけり        中川 宗淵

かなかなや腹のへりても食細し        石川 桂郎

死出の足袋足にあまるや法師蝉       角川 源義

うつせみと詠みし茂吉の忌なりけり      森 澄雄

恋せむには疲れてゐたり夕蜩         草間 時彦

かなかなのかなかなと鳴く夕かな       清崎 敏郎

人死にし家裏かつと蝉の山           鷲谷 七菜子

かなかなにまみれて水にゐるおもひ      鷲谷 七菜子

山は即ち水と思へば蝉時雨           高柳 重信

空蝉をのせて銀扇くもりけり           宇佐美 魚目

かなかなや母よりのぼる灸の煙         飴山 實

かなかなのどこかで地獄草紙かな       飴山 實


ページのトップ