ありゃま通信 俳句の頁

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(たまご)ゆで卵・寒卵・卵焼き・卵飲む


卵の句

卵の名句、といえば、まずこの句が浮ぶ。

ゆで卵むけばかがやく花曇       中村 汀女

「花曇」(季語・春)と絶妙のとりあわせになっている。
ゆで卵をむいたら、その表面がやわらかなつるつるで、光るけれどもいささか「ぼやっと」光り、強く輝くわけでもない・・あの感じ。

広島や卵食ふ時口ひらく        西東 三鬼

卵を食うとき、だれでも口を開く。物を食うときはいつも口を開く。そういう「当たり前」のことがふっと疑問になる。
「そこ」が広島だった。あるいは、広島を思ったときだった。
これを広島=原爆と断定することはできない。いや、むしろ断定しないことが作者の意図かもしれない。

[追記]
 西東三鬼の「続神戸」に、この句がつくられた事情が書かれていた。1947(昭和22)年のことかと思うが、次のように書かれている。(『神戸・続神戸・俳愚伝』講談社文芸文庫)
〈仕事が終って、広島で乗り換えて神戸に帰ることになり、私は荒れはてた広島の駅から、一人夜の街の方に出た。/曇った空には月も星もなくまっくらな地上には、どこからかしめった秋風が吹いてくる。…私は路傍の石に腰かけ、うで卵を取り出し、ゆっくりと皮をむく。不意にツルリとなめらかな卵の肌が現われる。白熱一閃、街中の人間の皮膚がズルリとむけた街の一角、暗い暗い夜、風の中で、私はうで卵を食うために、初めて口を開く。〉
  広島や卵食う時口ひらく
「卵の皮」と「人間の皮膚」、ツルリとズルリ、暗い夜の広島、秋風の中で・・と情景がはっきりする。



卵飲む少女するりと少年に       守谷 茂泰

卵は茹でたり目玉焼きにしたり、玉子焼きにするが、ごく最近まで生で飲む「滋養の素」でもあった。
戦後は、多くの家で鶏を飼っていたのだ。
いま卵は、大きな工場で大量生産され、食材の中では安いものになった。
その一方、地道に放し飼いの鶏が産む卵(有精卵など)を供給する農業が根気よくつづけられ、消費者から支持されている。この句、「卵は男が飲む」もの、という固定観念を利用しているのかと思えるが、さだかでない。

「寒卵」は季語(冬)である。以下、

大つぶの寒卵おく襤褸の上      飯田 蛇笏 *「襤褸」らんる(ボロ)

寒卵見に幾度も厨に来る        山口 誓子 *「厨」くりや(キッチン)

寒卵二つ置きたり相寄らず       細見 綾子

氷上に卵逆立つ うみたて卵     三橋 鷹女

鷹女の「逆立つ」は面白い。近代絵画のようなイメージの句だ。
逆立つ卵とは?しかも「うみたて」の!氷の上に?などの問いが既成観念をくつがえそうとする。大胆。
また、この句のように一文字分の空白をつくるのは俳句ではかなり強い主張の表現技法。

ほかの卵

石仏やどこかに蛇の卵熟れ      石田波郷

 蛇の卵が熟れる・・などという句を発想できる人は波郷いがいにあるだろうか。まして、いまや、動物園やペットショップの、外国産の蛇しか知らない人が多いという時代・・。


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