菫ほどな小さき人に生れたし(夏目漱石)

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菫ほどな小さき人に生れたし(夏目漱石)

夏目漱石は、1867年(慶応3)に生れ、1916年(大正5)12月9日没。49歳。
 この句は、明治30(1897)年、30歳の作。前年、松山から熊本に移っているので、「熊本時代」の作にくくられる。すでに早くから正岡子規と親友だった漱石の、やや早い時期の作である。しかし、すでのこの頃、漱石は子規のもとに集まる俳句作家のうちの主要なメンバーの一人であった。

句意は、文字通りである。現在から見れば、近代日本文学の創世記においてもっとも「偉大な」文学者である漱石が、草花を愛し、このようなロマンティックな句を作ったことは意外に思えるかもしれない。

漱石は、生涯に2600句を残した。俳人としても押しも押されぬ存在である。
 この句の少し前に、
  木瓜咲くや漱石拙を守るべく
 と言う句があり、それはのちの『草枕』にある次の文章に通じている。
<世間には拙(せつ)を守るという人がある。この人が来世生まれ変るときっと木瓜(ぼけ)になる。余も木瓜になりたい>。
 「守拙」とは陶淵明に淵源する、生き方の下手は下手のままに生きるという意志を示す。

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参考文献は多数なので省略。
○句の引用は『漱石句集』坪内稔典編・岩波文庫

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