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・さえずり(・うぐいす・ホオジロ・サンコウチョウ・ホトトギス)

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赤い帽子―さえずり―

[特別エッセイ]


サンコウチョウimage(『俳句の鳥・虫図鑑』より部分)
さえずり

 囀り(さえずり)が、春の季語になっていることを知ったのは、俳句をはじめてしばらくしてからのことでした。
 「囀り」「囀る」「鳥囀る」とも言います。
 春、暖かくなると鳥たちの鳴き声が満ち溢れるようになります。それを単に「さえずり」として春の季語としたものです。

 田舎に住んでいると、春の晴れた暁には小鳥たちがいっせいにさえずり交わし、朝が来たことを教えてくれます。実に、気持ちのいいときです。
 私自身は老いて後、生きることの忙しさや煩わしいあれこれやから解放されて、はじめて「囀り」に目覚める喜びを知りました。俳句をやってみてよかった、と感じる瞬間です。
 長年、朝の起床が苦痛でしかなかった私がこういう歓びを味わえるとは考えてもみませんでした。生きてみなければわからないことが多いことを何かにつけて思い知ります。
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聞きなす

 ほとんどの人が、たとえば鶯(うぐいす)が、ホーホケキョと鳴くことをご存知と思います。しかし、鶯もいろいろな鳴き方をしますから、それを「ホー、ホケキョ」と聞くのは、いつか、そう教えられたからなのです。これを「聞きなす(聞きなし)」と言うのです。
 たとえば、猫が「日本語」では「ニャアー」と鳴くのに、英語では「ミュー」と聞くのと同じです。牛は日本語で「モー」と鳴き、英語で「カウ」となくのも同じ「聞きなし」です。鴉は「カーカー」鳴きますが、聞く人の気分によっては「アホー、アホー」と聞えます。まあ、動物はいろんな声で鳴くものです。
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初音・笹鳴き・谷渡り・そして老鶯 (うぐいす)

春告げ鳥
 うぐいすは「ホーホケキョ」となくので、別名に法華鳥と呼ばれるそうですが、「春告鳥(はるつげどり)」とも言われる春を代表する鳥です。
 鶯の、その春最初の鳴き声を「初音(はつね)」と呼びます。俳句だけに通用する表現かもしれません。

笹鳴き・地鳴き
 また、ものの本には
「夏は高山や山地にすみ、秋から春にかけて里に下りてくる。この間は、チャッチャッと地鳴きをする。これを笹鳴きという」
と書かれたものがありますが、別の本には
「鶯は秋、冬にはチャッ、チャッの地鳴きしかできない。…(これを)笹鳴きと呼んでいる」
・・ことにその夏に産まれた子が笹鳴きをするとも言います。どうも後者が厳密なようです。
 その「山地」に住んでいるせいにはできませんが、私は、ややまぎれてしまい、「笹鳴き」を春はじめの頃の鳴き方と勘違いしていました。早合点のいけないくせですが、もう直りませんね。

谷渡り
 また、晩春から夏には、チャチャチャ・・(ケキョケキョ・・)と非連続の連続とでもいうような鳴きかたをします。これを「うぐいすの谷渡り」と呼びます。モズのようにテリトリーに厳しく、鶯が鳴いている場所で、口笛で鳴き真似をすると、必ずといっていいほど、寄ってきて鳴き比べをします。歩いて行くとついてくるのです。テリトリーへの闖入者だと思うようです

老鶯
 さて、もうひとつ。鶯は夏中を目立って鳴きますが、夏の鶯を「老いた」とみたてて「老鶯 ろうおう」(おいうぐいすとも。なつうぐいす)が夏の季語です。私には「老鶯」は、谷渡りほど短く切らず、かといってホーホケキョのすべてを鳴かないで、省略形でなくようにきこえます。

  老鶯は几帳面にはなかぬなり(しぐれ)*几帳面=きちょうめん

と愚作した理由ですが、いささか、〈老い〉への皮肉とも受け取れたのかも知れません。

 うぐいすひとつでこうもあれこれあるのですから、面白いといえば面白く、面倒だといえば面倒。でも、面倒がればそこでおわりです。

  うぐひすのあちこちするや小家がち(蕪村)

  老いを鳴く鶯思へきのふけふ(路通)*きのふけふ=昨日今日
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一筆啓上つかまつり候(ホオジロ)

 春を告げる小鳥にホオジロがいます。
 この鳴き声を「一筆啓上仕り候(いっぴつけいじょうつかまつりそろ)」と聞きなしたのは誰なのでしょうか。なかなか面白い聞きなしです。
 たしかに、そう知って聞けば「イッピツケイジョウ・・」と聞えなくもないのですから面白い。調べてみると、近い種類のホオアカ(同じホオジロ科)の方がもっとゆっくり「イッピツケイジョウツカマツリソロ」と鳴くようです。
 現代なら「メールする」でえ〜、というほど。
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赤い帽子(サンコウチョウ)

 私が鳥の鳴き声で、これほど目立って、はっきり聞えるのに、どうしても名がわからなかった鳥がいます。いや、私は、何もかもあまりに知らないことが多いのですが、とくに鳥に弱い。でも、自分でこれほど知りたくてもわからないことはそう多くはありません。

 それが「アカイボーシホーシー、ホシー(赤い帽子、欲しい、ほしいー)」と鳴く鳥でした。私はそう聞きなしていたのです。
 多くの鳥と同じように声はすれども姿は見えません。
 この鳥の名がやっと去年わかりました。サンコウチョウ(三光鳥)です。

 その名の由来は鳴き声の「ピヨロピホイ、ホーイ、ホーイ」の「ピヨロピホイ」のところを「月日星(ツキヒホシ)」、つまり「三つの光り」と聞きなしたというのです。その聞きなしでは「ツキヒホシ、ホーシ、ホーシ」となるのです。おまけに暗い林によくいるのだそうです。私は家にいて声をよく聞きますから、暗い林ではないように思っています。姿は見たことがありません。

 なるほど「ツキヒホシ」かあ、と感じ入りましたが、私には、耳に焼きついた「アカイボーシ、ホシー、ホシー」の方が忘れられません。「赤い帽子」もなかなか捨てたモンでもないでしょう。
 このサンコウチョウは、ウグイスを受けて、初夏になる頃、ホトトギスが鳴く前を鳴いて、いつの間にか消えてしまいます。同時期に啼くこともあります。
 図鑑で調べると雄はオナガよりも長いリッパな尾をしています。いまから、この鳥が来る日を待ち望む気分でいます。

[追記1]
 2006年は4月11日に最初に聞きました。
 強い雨が少しおさまったかに思えた昼前のことです。しかし、その後、また風雨が激しくなって、気温が上がらず、声も聞えなくなりました。

[追記2]
なぜ?赤い帽子
 どうも私の遠い記憶に童謡「赤い鳥」があったからそんな聞きなしをしたのではないか?と思い当たります。でも実際の鳴き声は「ぼうし」と濁らず、「ホーシ」と聞えるので、やっぱり「ツキヒホシ☆ー」に納得です。
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特許許可局(ホトトギス)

  目には青葉山郭公初鰹(素堂)
  めには あおば やまほととぎす はつがつお

 この句は有名です。江戸期の俳句ではトップクラスの知名度でしょう。
 しかし、子どもの頃にこれを俳句の代表作として教えられたために、季語重なりの句を作ってしまう初心者のいかに多いことでしょう。
 つまりこの句の「五・七・五」すべてが季語なのです。
 「青葉・ほととぎす・はつがつお」
 いずれも初夏の季語としては強いもので、今では、こう季語ばかり重ねては「普通」よくないとして、これを「季重なり」と呼び、季語は一句に一つとします。でも、この素堂の句は名句なのです。

 ところで、ほととぎすという鳥、いまでは都市近郊では声を聞くことが少なくなったといいます。その鳴き声を「てっぺんかけたか-天辺欠けたか-」とか「トッキョキョカキョク(特許許可局)」と聞きなします。早口言葉の東京特許許可局。ほんとにそう聞えるからおかしな話です。
 ほととぎすは昼夜に鳴き、夜の声はさすがにしみじみと聞えるものです。

 なお、ほととぎすは「時鳥」「不如帰」「杜鵑」「郭公」「子規」とも書きます。

子規
 正岡子規の「子規」という俳号は、ほととぎすが鳴くときに真っ赤な口舌を見せるので「血を吐く」といわれたことにちなみ、自分が「血を吐く」肺結核を病んでいることから、名乗ったといわれています。彼が創刊した俳誌の名も『ホトトギス』です。

  谺して山ほととぎすほしいまま(杉田久女)*谺=こだま

 郭公と書く「かっこう」は、閑古鳥とも呼んで別の種類です。
 こちらは「カッコー、カッコー」とややぶっきらぼうに鳴きます。そのさびしさを「閑古鳥が鳴く」と言うのです。「かっこうの巣の中で」のカッコウ。

  うき我をさびしがらせよ閑古鳥(芭蕉)

 ホトトギス、カッコウ(閑古鳥)とも、巣をつくらず、他の鳥の巣に自分の卵を託し(託卵)、雛を育てさせます。驚くことにホトトギスの卵は赤銅色をしています。

 田舎暮らしは、こうした鳥の鳴き声にうれしさやさびしさなどを感じとる面白さをおしえてくれます。私にとって、それは隣りにいる未知なる物への興味でもあります。まるでなにごとも知らない自然のジャングルの中に生きて遊ぶ気分がなんともいえません。(2006.3記)